社員の熱意を可視化し、マネージメントを可能にする「社員エンゲージメント」

従業員のマネジメントにコーチングや社員満足度向上のプログラムを導入してみたが、成果が上がっているのかどうか判断できない……。そうした悩みを持つ企業は少なくない。そうした中で注目を集めているのが、社員の“エンゲージメント”の測定です。

組織収益向上に直結する「社員エンゲージメント」

 社員の満足度向上や意識改革の最終的なゴールは、企業の収益を上げること。こんな素晴らしいES調査や研修をやった、と自己満足に陥っていてはいけない。
 社員調査や人材育成プログラムが企業の収益向上に結びついているかを適切に評価することが重要だ。そのためには指標が必要になる。
 “社員エンゲージメント”とは、世界30カ国に拠点を持つ、調査・コンサルティング機関であるギャラップ社が、これまでに蓄積した膨大な調査結果を分析して導いた「パフォーマンスの高い組織」に共通する要素を抽出したものだ。

90ヵ国、300万人のデータを分析

 ギャラップ社は、90年代に多数の社員満足度調査をおこなってきたが、必ずしもその組織のパフォーマンス向上に役立っていないことが分かった。そのことを問題視して、新たな信頼できる指標を探るために90ヶ国、290社、20万人のマネージャー、300万人の従業員から集められたデータの分析に踏み切った。
 その結果、組織のパフォーマンスに直接相関を示しているのは、従業員が組織に対してどれだけ愛着を持ち、仕事に対して熱意を持っているかを示す、“エンゲージメント”であることが導き出された。社員の“エンゲージメント”が高い組織ほど、高い生産性を誇り、業績を向上させていく……。
ギャラップ社のこの新しいアプローチで、組織の生産性を高めるための新たな指標の採用が可能となった。

社員エンゲージメントを測る12の究極の問い

 では、どのようにして社員のエンゲージメントの度合いを測ることができるのか。
これまで蓄積された調査結果のなかで、その質問にどう答えるかという結果と、組織のパフォーマンスが明らかにリンクしている項目、つまり高いパフォーマンスを上げている組織ではほとんど常に社員が高い評価を出しているような質問を抽出した。その結果がQ12だ。
 社員の「熱意」を測定し、組織のパフォーマンスを高めるためのカギが、この12問のシンプルな質問である。この12の質問は、ギャラップ社がこれまで築いてきた膨大なデータの蓄積と、培ってきた分析技術によって導かれた、いわば「究極の問い」なのだ。
 さまざま質問への解答を生産性の高いワークグループと、低いワークグループに分け、ある質問に対する答えの評価が高いことが、生産性の高さとイコールになるような質問を選んでいったときに、最終的に残ったのがこの12の質問だった。

マネジャーが社員エンゲージメント向上のカギ

 Q12の問いを吟味してみると、その中に、「報酬」に関する項目がないことに気づくだろう。従来の社員満足度調査では、必ず現在の給与水準に満足しているかが質問項目に入っており、正当な報酬を得られていると思えることが社員のモチベーションアップにつながると考える経営者も多い。
しかし、ギャラップ社の分析では、社員のエンゲージメントの高さと、給料や福利厚生施設の充実は必ずしも高い相関は示しておらず、むしろマネージャーがいかに部下との人間関係を築き上げ、目標を共有し、信頼して仕事を任せているかが最も大きな影響を与えているということが明らかになってきた。
 このことは、極言してしまえば、マネジャーによって社員のパフォーマンスを最高に高め、企業を成功に導くことも可能だ、ということだ。
  Q12の特徴は、すべての項目がマネージャーのコミットによって改善が可能だという点だ。例えば、会社の使命への共感度といったことでも、部下にとっては直接の上司であるマネジャーが会社の顔。マネジャーの働きかけによって、これらの項目への解答をプラスにしていくことが可能だ。
  Q12と従来の社員満足度調査の大きな違いは、最終的なフォーカスがマネージャーの部下のエンゲージメント度合いを示す「スコアカード」をベースにしたアクションプランにあることだ。ギャラップは各マネージャーが的確なアクションプランを実行することによって必ず社員のエンゲージメントは向上し、会社の業績も上るのだ。

エンゲージメントの向上を登山に例えて考える

 12の質問は、もっとも基本的なところから始まり、徐々にもっと心の奥、内面に踏み込んだ内容になっていく。Q01の会社から自分への期待を確認する質問も、分かっていて当然と思う方もいるが、実際に質問を行ってみると、思ったよりも理解できていない従業員は多い。
 そして、これらの12の質問はそのまま基礎からの積み上げを意味していて、最初の質問への評価が低いまま先に進んでしまうと、問題が起こることがあるという。
 最初の基礎となる質問で、社員の要求が低いまま放置すると組織の生産性が下がり、あとの質問への評価がいくら高くなっても、高い山の中腹にいきなり運ばれた人間が高山病になるように、問題が発生し会社を離れてしまう可能性が高くなる。

エンゲージメントの低い社員が会社を破壊する

 社員エンゲージメントの結果は、会社の業績とどのように関連しているのか。ギャラップ社では、Q12の結果から、社員エンゲージメントの分析結果を提供している。それが、「完全にエンゲージしている」「エンゲージしていない」「全くエンゲージしていない」の3分類だ。

1)完全にエンゲージしている社員

 まず、「完全にエンゲージしている」層は、仕事に対して心理的に100%コミットしている忠実で生産的な社員だ。これらの社員は仕事にやりがいを感じ、常に高いレベルで業務を行って成果を出し、さらに周囲にポジティブな影響を与えることもできる。イノべイティブな性向を持ち、会社をさらに良くするために積極的に努力する。

2)エンゲージしていない社員

 「エンゲージしていない」社員は、必ずしも仕事に対して消極的ではないが、しかし会社に対して心理的に全力を尽くしているわけではない層をさす。言われたことはやっているが、それ以上に情熱をもってどうしたら会社を良くできるかということまでは考えない。この層が、会社の中の割合としては一番多いようだ。

3)全くエンゲージしていない社員

 「全くエンゲージしていない」社員は、会社の業務に対してマイナスの感情をもっていて、否定的な事柄を他の人と話し合うことに毎日時間を費やしているような層である。そして、この「全くエンゲージしていない」層は、会社にネガティブな影響を与える可能性もある。
 この「全くエンゲージしていない」層が一番シェアの多い「エンゲージしていない」層に悪影響を及ぼすことがある。また、この層は「完全にエンゲージしている」社員が築きあげた成果を簡単に壊すことがる。

あなたの職場で「完全にエンゲージしている」社員の比率は

 実際に、この3分類を使った分析の結果はどうなっているのだろうか。
 ギャラップ社の分析結果では、日本の会社で「完全にエンゲージしている」社員が9%、「エンゲージしていない」社員が72%、「全くエンゲージしていない」社員が19%で、他国と比べ「エンゲージしていない』社員の割合が多いのが特徴だ。 

そして、この3分類を使った「日本におけるビジネス・インパクト」についての調査では興味深い結果が出ている。例えば、「定年まで今の会社で働く」といった質問には、「完全にエンゲージしている」社員の62%が「YES」と答えているのに対し、「全くエンゲージしていない」社員は21%となっている。「年間の病欠日数」についても「完全にエンゲージしている」社員が平均5.09日に対し、「全くエンゲージしていない」社員が8.57日という結果になっているのだ。このように、ギャラップ社の「社員エンゲージメント」の結果は、社員の「熱意」やパフォーマンスの高さを診断する有効な指標であり、企業の業績向上に役立つものとして注目を集めている。

(文責:一般社団法人日本エンゲージメント協会代表理事/ユーダイモニアマネジメント株式会社代表取締役 小屋 一雄)